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新英語教育研究会神奈川支部HP

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2015 中村敬さん 英語教育再生案

5月春の一日研修会 5月10日(日)9:30~17:00横浜市技能文化会館 大研修室802

●講演:中村敬さん(成城大学名誉教授)「実作で示す英語教育再生案」

1. はじめに
・ 講演者から:現在安倍内閣が進める英語教育改革は、亡国の改悪案です。それを批判するのは簡単ですが、批判(言説)だけでは実効性はありません。そこで、改革の根本原理を実作で提示したいと考えて出版したのが『英語教育神話の解体――今なぜこの教科書か』(三元社)です。私はこの著作を遺言のつもりで書きました。今なぜこの教科書かをじっくり語りたいと思います。
・ 中村先生には長野県白馬村から遠路はるばるお越しいただいて、お疲れではないかと心配したのですが、話し方は明晰で迫力に満ち、声は落ち着いたトーンで聞きやすく、眼光鋭く、しかも柔和で、フロアからのすべての質問に答えてくださいました。

2. 講演
・ まず、「英語教育をとりまく日本や世界の状況が、いかに教育を汚染しているか」ということを話され、次に「この状況が悪くはなってもよくなっていない、しばらく変わらないという危惧がある。どうしたらいいかについて議論は起こるが、実物で示されていない。そこで教科書を作った」と言う話をされました。ちょうど一年前に上梓された「『英語教育神話』の解体-今なぜこの教科書か」は、英語教育再生を期して、先生が実作で示された「非」検定教科書というわけです。
・ レジュメの項目、1. 学校の英語教育をとりまく状況、2. 大状況の中の政府主導の(英語)教育政策の問題点、3. 大状況の中の英語教育界の問題点、4. 状況にあらがう本書作成の戦略、5. 状況にあらがう本書の構成と問題提起に沿って話されました。
・ 現在の日本の大状況は、辺見庸が丸山真男の書物から引用して言った「つぎつぎになりゆくいきほひ」であると定義され、「次々といろいろなことが勢いをつけて成り立ってしまう」時代であるとされ、その背景に「消費者民主主義」(想田和弘『日本人は民主主義を捨てたがっているのか』より)、「あらゆる分野での無責任化」、「議論・批判・思想のない三無い主義」、「敵対性の否認」などを挙げられ、「三無い主義」は歴史に学ばない姿勢と結びつき、「敵対性の否認」は反知性主義(内田樹編『日本の反知性主義』より)とドッキングしてこの大状況を示すキーワードだということです。知性とは物事を吟味する能力、態度であり、現在は反知性主義が蔓延していると。こうした状況が利用されて国の教育政策が施され、またそれを支持する国民の政治的無意識があると述べられました。教育に政治や経済の論理が導入されると教育は死ぬ、いやすでに死につつある。戦後の1947年、アメリ カの教育視察団がPTA、教育委員会など国の介入を受けない機関を作ったのは、天皇の地位を象徴に変えたのと同じく、アメリカの国益に反しないからだったのだが、数年後には早くも後悔して、「学習指導要領」などにどんどん介入し、戦後70年、日本の教育はすでに独立性を失っている。
・ その中で政府主導の英語教育政策の問題点として、1 確固たる哲学の欠如、2 「神話」を助長する政策、3 「植民地的(あるいは愚民化の)英語教育」を助長する政策、4 EFLとESLを 区別しない(あるいはできない)政策を挙げられました。
・ 逆に、英語教育界の側には、1 政府の教育政策 2 検定教科書 3 指導要領 4 検定制度そのものに対する論理的な批評・批判の欠如があると述べられ、その最後に 5 英語教育の疑似学問化があると憂慮されました。つまり、OECDによる国際 教員指導環境調査(2013年)で、「生徒に批判的に考えることを促す」の項目に対して、実行している教員の割合が日本は15.6%(平均80.3%)と極端に低いことを指して言われています。厳しいご指摘です。それと同時に、「読んで批判的に考えることを促す英語教科書をぜひ作る必要がある」という中村先生の切実な思いが伝わってきました。
・ 戦後の教育政策に関連して話される中で衝撃的だったのは、文部省唱歌『ももたらう』の歌詞を説明された時です。1910年ごろ、文部省の依頼で日本に標準語を広めていく目的で作られたそうなのですが、その内容たるや…。一般に知られている1、2、3番の「きび団子くれませんか?」「いいですよ、鬼の征伐についていくなら」「行きましょう。家来になって何処までもついて行きましょう」に続く4、5番は、「そりゃ進め、そりゃ進め、一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼が島」「おもしろい、おもしろい、のこらず鬼を攻めふせて、分捕り物をエンヤラヤ」という具合で、「鬼がどのように悪いことをしたかについて何も説明がない」「いったい正義とは何ぞや。鬼が何か悪いことをしたのか?」「鬼にも子どもがいただろう」「当時、この歌はどこに向かっていたのか」と結ばれていました。また、オバマ大統領の発言にも触れ、今の日本の政治状況を鋭く批判されました。
※ウィキペディアには「桃太郎の姿が、日の丸の鉢巻に陣羽織、幟を立てた姿になり、犬や鳥、猿が「家来」になったのも明治時代からである。それまでは戦装束などしておらず、動物達も道連れであって、上下関係などはない。明治の国家体制に伴い、周辺国を従えた勇ましい日本国の象徴にされたのである」とある。
・ こうしたお話の後、4. 状況にあらがう本書作成の戦略、5. 状況にあらがう本書の構成と問題提起へとお話は進みました。1 批評・批判力を育てる教材を作成する 2 本文は一人で書く 3 題材を最重要視する 4 練習問題も批評・批判精神を育てるものにする 5 英語と日本語の意味の差異を精査することで言葉への関心を高めるものにする 6 英語の特殊性と普遍性に気づかせるものにするという内容です。
・ 後の質疑応答で
Q:他者との軋轢をさける子どもが多くなっている。どういう教育をしたらいいか。という問いに、A:「出世」と本質を教えることはしばしばぶつかる。と前置きされ、「今の教科書はエクササイズが本文と切り離され、批判的な視点がない。大事なことはしっかり時間をとって話す。教育現場において批判すべきことを徹底的に批判する。教育の力を待つしかない」などと話されました。
・ 私もこの本を1冊買いました。じっくりと読んで、実践に生かせればいいと考えます。特に、中村先生がこの教科書を書かれるにあたって重視した 4 について、アマゾンショッピングのレビューに書かれていますので引用します。
・ 文章を批評 的批判的に読み解くことができるようにする
リアリティーに裏打ちされた本文に続き、文章を読み解くレベルを超えて「文章を批評的批判的に読み解く」能力の養成に向けた Reading と Writing の練習問題が用意されています。「Critical Reading」の設問には日本語で、「Imitative Writing」の設問には英語で答えるという違いはありますが、設問は共通して生徒に自分の考えを述べることを求めています。自己表現です。この練習問題、チャレンジングであるとともにクリエイティブです。試みに設問の一つひとつに声を出して英語で答えてみると得心がいきます。思考とリンクしながら英語が口をついて出てくるような感覚があります。「自まえの英語」です。

 なぜあらゆる分野で無責任かなのか。なぜELFとESLを区別しないのか。なぜ愚作かなのか。すべてのことが、つながるお話で、あっという間の2時間半でした。ありがとうございました。
 中村先生のひとすじの「まなざし」に大変心をうたれました。先生のおっしゃった亡国の日本という言葉が重く心にのしかかってきました。先生のお言葉の中に「権力構造に向かって戦うにはグループなしではできない。しかし仲間を作るとまあまあ主義になる。個人として真正面から向かうしかない。」本当にそう思います。
 貴重なお話をありがとうございました。本を注文しましたので読ませていただきます。
 日本の英語教育が抱える二つの大きな問題点 1 塾教育に負けている、 2 パーマーの指導法は日本の英語教育の主流にはなっていない。それ以外にもたくさんの内容をダイナミックに聴講できました。
 戦中戦後史のお話がとても刺激的でした。
 歴史から学ぶこと、私自身もさらに勉強しようと思います。
 自分が学習指導要領に抱いていた疑問が晴れて、だいぶすっきりしました。萩原先生のやり方をまねしつつも、もっと教材のことを深く考え授業をしていこうと思いました。
 2014年度は文科省から高3生全員に英語の統一テストを受験するように命じられたり、横浜市教育委員会から、横浜私立高校全日制の2年生全員にTOEFLを受験するように命じられるなど、学校の年間予定確定後に突然Top-downで命じられたので、現場は大変でした。・横浜市教育委員会の教育指導目標に、グローバル化に向けて「国際語である英語」の力を高めさせることが挙げられています。敬先生の教え子として、この用語自体に引っかかりを感じています。校長からも後数年で英検2級の合格者の割合を増やすように数値目標が掲げられました。こういうのって学校の英語教育の本来の姿とはかけ離れていると思います。
 検定教科書に反し、私案を示されたお姿は真似しないとならないと思いました。事実認識が大事だという峯村さんの言葉も大切にしたいと思います。歴史認識で「憲法」は血を流して作ったものではないという発言は受け入れられない。鈴木安蔵チームが研究を重ねてきた結果だ。(仮に押し付けられたとしても、何が問題なの?)
 「今の校長先生の話、君はどう考える?」と生徒に問いかける教員はまずいない、という話が印象的でした。世の中はクリティカルシンキングばやりですが、本当の意味でのクリティカルシンキングを実践している教員はどれだけいるでしょう。「クリティカル」は当事者性の高い問題を扱ってこそ生きるのだ、学びになるのだと思います。
 批判的思考力、critical thinkingという言葉はよく聞きますが、それを実際どのように身につけるか/教えるかについては、私はまだ全く不勉強です。これから考えていきたいです。また、批判的にものごとをみることは、今日は政治的なことが中心でしたが、そうでないことを通してもできるのでしょうか?
 フォーマット化の進んだ昨今、‘基本’を再確認できてとても喜ばしいものでした。国際レベルで活躍していく為にも、追求心、相対的な思考、そしてidentityを育てなければならない。再学習し、柔軟な心を持って、今後に役立てていきます。

 少し私には難しい話できたが、普段の教材そのもの、また、それを選択する時の参考になる話でした。
 権力に体を張って戦って来られた中村さんの話には力がありました。大変、勇気づけられました。
 英語教育の本質に迫るお話で、大変考えさせられました。日々の授業に追われ・・・次の授業どうしよう?を考えるのにアタマがいっぱいでした。“歴史から学ぶ”機会をいただき、ありがとうございました。
 確固たる信念を貫き通した偉大な英語教育者を前に、何と自分は目先のことしか見えていない一介の教員に過ぎないのかと恥ずかしくなりました。到底たどりつけない境地かとは思いますが、本をじっくり読ませていただいて、勉強しなおそうと思いました。久し振りにお話を伺う機会に恵まれて、幸運でした。


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